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東京地方裁判所 昭和33年(ワ)1472号 判決 1961年11月17日

原告 伊藤梅子 外一名

被告 日本ゲルマニウム工業株式会社

主文

一、被告会社が昭和三〇年一〇月一四日開催した臨時株主総会における別紙決議は無効であることを確認する。

二、原告渋谷勝也の本件請求は棄却する。

三、訴訟費用は、これを二分し、その一を被告の負担とし、その余を原告渋谷勝也の負担とする。

事実

原告ら訴訟代理人は、「被告会社の昭和三〇年一〇月一四日の臨時株主総会における別紙決議は無効であることを確認する。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

「一、原告らは、被告会社の取締役であり、原告伊藤梅子は同会社の四〇〇株の株主である。

二、被告会社は、昭和三〇年一〇月一四日臨時株主総会(以下本件総会という)を開催し、別紙記載のとおりの決議をした。

三、しかし、本件総会でなした右決議は、次の事由にもとづき無効である。

(一)、本件総会は、被告会社の代表取締役たる訴外渡部和市が昭和三〇年一〇月三日招集の通知を発したのであるが、これより先、同訴外人は同年九月一四日名古屋高等裁判所より保証金一〇万円を供託するときはその取締役たる職務の執行を停止する旨の決定(昭和三〇年(ラ)第四八号)を受け右決定書は同月一六日同訴外人に送達され、同月一九日前記保証金は供託され、その旨の登記は同年一〇月五日になされたから、本件総会は同訴外人が取締役の職務執行を停止されながら、代表取締役として、その招集をして開催したことに帰し、したかつて、これにもとづくその決議は無効である。

(二)、原告伊藤梅子は、昭和三〇年一〇月一二日岐阜地方裁判所大垣支部に対し、本件総会においていかなる目的事項の決議をなしてはならない旨の仮処分を申請し、翌一三日その旨の決定(昭和三〇年(ヨ)第二七号)があり、同日該決定は被告会社に送達された。本件総会の別紙決議は右仮処分に違反してなされたから無効である。」

と陳述し、

被告主張事実に対し、

一、本件総会が、昭和三〇年九月一七日の被告会社の臨時株主総会の延会であるとの事実は否認する。昭和三〇年九月一七日の臨時株主総会は一部の少数株主の招集請求によるもので、議題は原告伊藤梅子ら取締役の解任を目的とする事項のみであつたがその出席株主が過半数に満たず議長は職務執行停止中の前記渡部和市が就任したものであつて、適法に成立することなく、遂に、流会となつたものであるのに対し、本件総会の議題は、右解任を目的とする事項のほか、本店移転の件などが付加されており、全く、別個の株主総会であるから、改めて、権限のある招集権者によつて招集手続がなされなければならないものである。

二、本件総会の決議を禁止した仮処分決定の正本が、被告会社に送達されていないとの事実はこれを否認する。同正本は、被告会社の社長であつた訴外河本喜頼により、被告会社の工場管理人として使用されていた訴外日比広三郎が、受領し、本件総会開催の当日、被告会社の工場事務所内の見易い場所に掲示されていたものである。

と述べ、

立証として、甲第一ないし第一〇号証(但し、第七号証は欠番)第一一号証の一ないし五を提出し、乙第九号証の認否をせず、乙第三号証の一ないし三、第四ないし第七号証の成立は不知と述べたが、その余の乙号各証の成立は認めた。被告訴訟代理人は、「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、答弁として、原告ら主張事実中、第一項の事実は否認する。原告伊藤梅子は、本件総会の決議により、原告渋谷勝也は、昭和三〇年一一月一八日の株主総会の決議で、いずれも被告会社の取締役を解任されており、仮りに、然らずとするも、原告ら両名が、取締役に選任されたのは昭和三〇年七月二〇日以前であつて、現在は、任期満了により取締役ではなくなつており、訴の利益はない。第二項の事実は認める第三項の事実中、原告主張のように、訴外渡部和市に対し仮処分決定があり、該決定が送達され、供託、登記のなされたことは認めるが、その余の事実は否認する。と述べたほか、なお、

次のとおり主張した。

一、被告会社の小数株主は、被告会社に対し、別紙記載のとおりの目的事項について臨時株主総会を開催するよう請求したので、昭和三〇年九月一七日、右事項を目的とする臨時株主総会を開催したところ、同総会は発行済株式総数八〇万株のうち五〇一、七〇〇株の株主が出席し適法に成立したが、議事進行について紛争があり、同年一〇月一四日に延期する旨の決議をした。したがつて、本件総会は、右延期の決議にもとづき開催されたものであるから、本件総会の招集手続は不要であり、招集権者たる代表取締役訴外渡部和市が、そのころ、原告主張のように、その職務の執行を停止されていても、本件総会の別紙決議には何らのかしもない。なお、原告主張の本件総会についての右渡部和市がなした招集手続は、必要はないが、念のため、通知をしたという事実上のものにとどまる。

二、原告主張の岐阜地方裁判所大垣支部の仮処分決定の正本は、その主張のように被告会社に送達されたことはない。同正本が、昭和三〇年一〇月一三日(本件総会の前日)、被告会社の日比広三郎なるものに送達されたとしても、同人は、被告会社の従業員ではなく、被告会社とは何の関係もない者であるから、結局、右正本の送達はなかつたことに帰着し、原告主張のような仮処分決定の効力は発生しなかつたといわざるをえない。

立証として、乙第一、第二号証、第三号証の一ないし三、第四ないし第九号証を提出し、証人渡部和市(一、二回)の証言及び被告代表者本人尋問の結果を援用し、甲第四号証の成立は不知と述べたが、その余の甲号各証の成立は認めた。

理由

まず、原告らの当事者適格について判断する。

一、原告伊藤梅子について、

成立に争いない甲第一一号証の一ないし五によれば、原告伊藤梅子が被告会社の四〇〇株の株主であることが認められる。他に、右認定を左右するに足る証拠はない。そうだとすると、原告伊藤梅子が被告会社の取締役であるかどうかに関係なく、本件総会の決議無効確認を求める法律上の適格は、当然、これを有するといわなければならない。

二、原告渋谷勝也について、

成立に争いない甲第一号証(乙第一号証と同じ)、乙第八号証によれば、原告渋谷は、本件総会の当時被告会社の取締役であつたが、その後、昭和三〇年一一月一八日の株主総会において解任され、その旨の登記がなされていることが認められ、右認定を動かすに足る証拠はない。そうだとすれば、同原告が、本訴において、他に、本件総会の決議の効力を争うにつき、法律上の利益を有することを特に主張立証しない限りは当然に、本件総会の決議につきその無効確認を求める適格があるとはいえないから、原告渋谷の本件請求の分は棄却を免れない。

次に、本案について、判断する。

一、左記事実は当事者間に争いない。

1、被告会社が、昭和三〇年一〇月一四日、臨時株主総会(本件総会)を開催し、別紙記載のとおり決議したこと。

2、本件総会については、被告会社の代表取締役たる訴外渡部和市が昭和三〇年一〇月三日「招集通知」と題する書面を被告会社の各株主宛に送付したこと。

3、然るに、右渡部は、同年九月一四日、名古屋高等裁判所より保証金一〇万円を供託するときは、同人の取締役の職務の執行を停止する旨の決定(昭和三〇年(ラ)第四八号)を受け、同月一六日右決定の正本が送達され、同月一九日右保証金が供託され、その旨の登記が一〇月五日になされたこと。

二、ところで、被告は、本件総会は独立の株主総会ではなく昭和三〇年九月一七日開催の臨時株主総会の決議により延期された継続会(延会)である旨主張するので、この点について判断する。

成立に争いない甲第六号証、証人渡部和市の証言(一、二回)並びに同証言により成立を認め得る乙第六号証を綜合すると、次の事実が認められる。

1、被告会社は、昭和三〇年九月一七日、少数株主よりの請求にもとづき、当時の本店所在地たる大垣市南若森町三五一番地において、臨時株主総会を開催し、発行済株式数八〇万株のうち五〇一、七〇〇株の株主が出席し、同総会は成立したが、都合により議事の審議に入らず、同年一〇月一四日、右本店所在地で、延会(継続会)を開催する旨、大多数で可決し、閉会したこと。

2、右臨時株主総会は、被告会社の代表取締役たる訴外渡部和市を、議長に選出し、同訴外人が、総会の開会及び閉会の宣言のほか議事の進行を指揮したこと。

3、右臨時株主総会の目的たる議案と、本件総会の目的たる議案は、共に、同一の議案であつたこと。

他に、以上認定を左右するに足る証拠はない。

三、そうすると、本件総会は、前記昭和三〇年九月一七日の臨時株主総会の継続会であつて、独立の総会ではないから、これにつきあらためて総会招集の手続を履践する必要がないことは、多言を要しないところである。もつとも、前記のように、本件総会については、仮処分により職務の執行を停止された被告会社の代表取締役渡部和市が招集通知を発しているけれども、右はたんに昭和三〇年九月一七日の臨時株主総会を延期した旨を一般株主に知悉させようとした事実上の通知であるが、または、法律上無意義の招集通知というのほかないからこれによつて本件総会が独立の総会であつて不適法のものと認めることはできない。なお、昭和三〇年九月一七日の臨時株主総会においてはその開催前被告会社代表取締役渡部和市についてその職務の執行を停止する旨の仮処分決定があつたにかかわらず、同人が議長として議事の運営に当り延期をしたのであるから、その決議は違法であつて、これにもとづく本件総会の決議も違法ではないかとの疑を生ずるので、次にこの点につき一言する。前示のとおり、渡部和市に対する職務執行停止の仮処分決定は右臨時株主総会開催の前日たる昭和三〇年九月一六日同人に送達されたが、その決定は立保証を条件とするものであり、その保証金一〇万円は右臨時株主総会開催の翌々日たる九月一九日に供託されている。したがつて、右仮処分決定の効力は同日に生じ右臨時株主総会開催の当時は渡都和市はいまだ代表取締役として議長の職務を行いうる状態にあつたものというべきである。のみならず、株主総会において議長がその職務を行いえないという事実は、当該総会の決議を無効たらしめるものではないから、右臨時株主総会における延期決議も当然には無効ではなく、したがつて、渡部和市がその職務の執行を停止されたことは、右総会の継続会たる本件総会における決議の効力を左右すべき事由となるものではない(決議が取消の対象となるかどうかは別問題である)。

四、成立に争いない甲第八号証、第一〇号証及び弁論の全趣旨を綜合すると、原告伊藤梅子の申請した岐阜地方裁判所大垣支部昭和三〇年(ヨ)第二七号仮処分事件について「被申請人(被告会社)日本ゲルマニウム工業株式会社は、昭和三〇年一〇月一四日臨時株主総会(本件総会)において如何なる目的事項の決議をもなしてはならない。」旨の同年同月一三日付の決定がなされたこと。右仮処分申請事件については被告会社の代表取締役たる訴外渡部和市がその職務執行停止の仮処分を受けているので裁判所は被告会社の特別代理人として大垣市寺内町三丁目五二番地後藤朝一を選任していること。以上の事実が認められる。ところで右仮処分決定の正本が被告会社に送達されたかどうかの点については成立に争いない甲第九号証および成立を認め得べき乙第九号証によれば、岐阜地方裁判所大垣支部の廷吏たる訴外伊藤権次は、昭和三〇年一〇月一三日午後四時一〇分、大垣市南若森町三五一番地所在の被告会社特別代理人たる訴外後藤朝一が不在のため被告会社の事務員として訴外日比広三郎に対し、右仮処分決定の正本を交付したことが認められる。もつとも、被告は、右日比広三郎は当時被告会社の従業員ではなく、右仮処分決定の送達は不適法であると主張し、証人渡部和市および被告会社代表者鍋島直浩本人はいずれもこれに符合する供述をしているが、他面、右本人は、被告会社当時の代表取締役河本喜頼が昭和三〇年八月ころ右日比を会社に住まわせたものであつて、当時他から「日比という者を会社に入れる」旨の電話を受けた旨供述しており、これによるときは、日比広三郎は当時少くとも被告会社の同居人と認めるに足り、右仮処分決定の送達当時被告会社が日比を退去させたことについては右の証人、本人は何ら触れていないのであるから、前記供述のみによつて直ちに右仮処分決定の送達を不適法とすることはできない。したがつて、被告会社は、一応、前記仮処分決定の趣旨に則り、本件総会の一切の決議を中止すべきであつたのに、これに違反して、本件決議をなしているのであるから、これらの決議はすべて、株主総会の議事を制限する仮処分決定に違反してなされたものとして、当然無効と解するのほかはない。

五、以上の次第であつて、原告伊藤梅子の本訴請求は、理由があるから、正当としてこれを認容することとし、訴訟費用の負担については、民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 長谷部茂吉 玉置久弥 白川芳澄)

決議

1 本店東京都中央区日本橋小網町三丁目一番地日本畳材ビル内に置く。

2 取締役河本喜頼、同伊藤梅子、監査役伊藤道次を昭和三〇年一〇月一四日解任した。

3 同補欠に付、同日、取締役監査役に左の者就任した。

横浜市神奈川区羽沢町一、二一二番地

取締役 吉川清志

東京都世田谷区玉川用賀町一丁目六七番地

同 鍋嶋直浩

同都中央区日本橋浜町二丁目五二番地

監査役 阿部十郎

4 監査役一名増員に付同日左の者就任した。

埼玉県秩父市日野田六八〇番地

荒船忠政

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